アメリカの市民生活

スマホ見過ぎで子どもが病気

スマートフォンやタブレットなどデジタル機器の長時間利用は子どもの健康に悪影響を与えるという研究結果が次々と報告され、アメリカだけでなく、各国政府が規制に動き出しました。

心臓代謝疾患のリスク上昇

 子どもがスマートフォンなどの電子機器の画面を長時間見続けると、高血圧や高コレステロール、インスリン抵抗性など心臓代謝疾患のリスクが高くなる可能性があると、最新の研究でわかりました。
 研究はデンマーク・コペンハーゲン大学の研究者らが行い、8月にアメリカ心臓協会の査読付き専門『アメリカ心臓協会ジャーナル』誌上で結果が発表されました。
 過去に10歳と18歳の子ども合わせて1000人以上を対象に行った調査で得られたデータを分析し、スクリーンタイム(画面を見ている時間)と心血管代謝リスク因子の関係を調べました。
 スクリーンタイムの対象に入れたのは、テレビ、映画、ゲーム、娯楽目的での携帯電話、タブレット、コンピューター。
 分析の結果、10歳のグループでは、スクリーンタイムが1時間長くなるごとに標準偏差が0.08ポイント、18歳のグループでは同0.13ポイント上昇しました。
 論文の筆頭著者、デビッド・ホーナー医学博士は「1時間あたりの変化は小さく見えるが、多くの青少年で見られるように、スクリーンタイムが1日3時間、5時間、6時間にも達すると、変化は積み重なって大きなものになる」と述べ、長時間使用の危険性を警告しました。
 また、寝不足や夜更かしが、スクリーンタイムと心血管代謝疾患のリスクの相互関係を一層強めることもわかりました。
 2013~2018年の国民健康栄養調査データによると、2歳から19歳の若者のうち心臓代謝の状態が良好なのはわずか29%。
 アメリカ心臓協会は「若者の間で心臓代謝疾患のリスクが高まっている」との認識を以前から示していますが、今回の研究結果は、その一因がスマートフォンなどの見過ぎにあることを示唆すると共に、協会の認識が正しいことを裏付けることとなりました。

攻撃的な性格に

 別の研究報告では、スクリーンタイムが増えると、攻撃性が高まったり、逆に自尊心が低下する子どもが増えることが確認されました。
 研究はオーストラリア・クイーンズランド大学の心理学の准教授、マイケル・ノエテル博士らのグループが、約30万人の子どもを対象とした大規模な国際調査のデータを分析したもので、学術誌『サイコロジカル・ブレティン』に6月に論文が発表されました。
 閲覧するコンテンツ別では、ゲームに費やす時間が長いと、子どもの心や精神に及ぼす影響が大きくなる傾向がありました。
 ゲームが子どもに与える影響に関しては、暴力的な内容のゲームを好む子どもは性格も暴力的になるとよく言われますが、ノエテル教授によると、ゲームの内容には関係なく、長時間プレーするほど子どもが暴力的になるということです。

スマホとメンタルヘルスの関係

 アメリカでは子どもの精神疾患の発症率が上昇傾向にあり、これとスマホの関連が、専門家ばかりでなく、小さな子どもを持つ親や、さらには子ども自身も懸念を抱くようになっています。
 調査会社ピュー・リサーチ・センターが2024年9月から10月にかけて13歳から17歳の子どもとその親を対象に行った調査は、スマホと子どもの精神疾患との関係を改めて印象づける結果となりました。  
 子どものメンタルヘルスを心配しているかと聞いたら、親の55% が「非常に心配」、34% が「やや心配」と答えました。
 子どもに同じ質問をしたら、35% が「非常に心配」、42% が「やや心配」と回答。
 親ほどではないにしろ、多くの子どもが自身のメンタルヘルスを心配していることがわかりました
 さらに子どもに対し、SNS が自分の年頃の子どもにどんな影響を与えるかを聞いたら、48% が「悪影響を与える」と答えました。
 「よい影響を与える」の11% の4倍以上となったのです。22年に調査した時は「悪影響を与える」が32%、「よい影響を与える」が24% でした。
 わずか2年で子どもたちの SNS に対する見方が大きく変わったことがわかります。

規制強化の動き

 世界保健機関(WHO)は、4歳未満のスクリーンタイムを1日1時間以内とし、1歳未満は一切、デジタル機器で遊ばせないようにすることを推奨しています。
 また、アメリカ小児科学会は2歳から5歳までの娯楽目的のスクリーンタイムを、平日は1日1時間、週末は3時間に制限することを推奨しています。
 子どもの使用を念頭に、スマホや SNS の使用を法律で規制する動きも起きています。
 ケネディ保健福祉長官は5月に公表した報告書の中で、小児肥満や発達障害など子どもの慢性疾患が蔓延しているのは、化学物質への曝露や超加工食品に偏った食生活に加えて、「スマホの見過ぎによる運動不足」が原因と指摘。
 トランプ政権として問題解決のための具体策を打ち出す考えを示しました。フロリダ州は14歳未満が SNS のアカウントを取得することを禁止しました。
 ユタ州は18歳未満の SNS 利用に保護者の同意を取り付けることを義務付けました。
 アメリカ以外でも、オーストラリアが16歳未満の SNS 利用を禁止する法律を制定、フランスのマクロン大統領が15歳未満の SNSの禁止に意欲を示すなど、子どものスマホ使用を規制する動きが広がっています。
 日本も、子どもの心身の健康を守る観点から、早急に規制に踏み切るべきです。